「Mr. トルネード」航空事故を激減させた気象学者

ノンフィクション

この本は、気象学者の藤田哲夫の生い立ちと業績について書かれた本です。

今日、私たちが乗る飛行機は車や電車よりも事故を起こす確率が低い乗り物として知られており、統計によると「毎日乗っても400年は事故しない」と言われているほどです。

しかし、およそ40年前はここまで安全性が高くなく、年に一度は百人単位で人命が失われる航空事故が発生し、さらに原因も分からずじまいでした。

そこで立ち上がったのが当時アメリカの大学で竜巻を研究していた藤田哲夫氏でした。

かれは事故当時のデータを詳細に分析し、ほんの数分間だけ台風並みの風が上空から吹き降ろす現象 “ダウンバースト” を発見するに至ったのです。

皮肉なことに、藤田哲夫氏の業績は世界中の航空業界で応用されているにもかかわらず、アメリカで研究、発見されたためなのか日本ではあまり知られていません。

この本を読んで、日本はなんて惜しい事をしているんだという気になってしまうのはボクだけではないでしょう。

よく日本人がノーベル賞を受賞したというニュースを耳にしますが、その日本人は結構な割合でアメリカ国籍を取得し、アメリカで研究しています。

日本のメディアは敢えてその事について深く言及しませんが、けっきょく日本で研究しているとノーベル賞レベルの発見ができなかったという現実が見え隠れします。

日本とはケタ違いの資金が提供されたり、失敗するリスクを恐れないアメリカの環境が、自分たちの研究を後押ししてくれると見込んで研究者が移住を決意してしまうのだと思います。

研究分野だけにとどまらず、一般的なビジネス面でも日本は海外に優秀な人材が流れてしまっている今日この頃、良くも悪くも日本人の活躍の場はますます海外に広がることでしょう。

それにつけてもMr. トルネードこと藤田哲夫氏の性格を考えると、この業績は獲るべくして獲った感が否めません。

彼は気象学だけでなく物理学、はたまた機械工学にも精通しており、現場主義的な姿勢を崩さず観察を中心に研究する姿はさながら”シャーロック・ホームズ”を彷彿させる文中で語られています。

じっさいに自分の目で見た事実をもとに分析し、そこから導き出された手がかりを組み合わせて真実を明らかにする、言い得て妙だと思います(シャーロック・ホームズ読んだことないけど)。

文中では彼の成功の要素をいろいろ書いていますが、ボクが思うに藤田哲夫氏だけに成功者の秘密は、その分野に人一倍ハマったことだと思います。

他の分野に精通していたのも、結局はやっていたら楽しくなって、気が付いたら普通の人よりも詳しくなっていたという子供らしい性格が高じたためだと考えています。

簡単そうに言いましたけど、それが難しいから天才と呼ばれるんでしょうね。

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