自転車で世界を一周するという偉業を成し遂げた著者、坂本達がつづった自伝です。
坂本氏は幼少期より抱いていた「自転車で旅をしたい」という願いをかなえるため、当時勤めていたミキハウスの社長に直談判、その後アフリカを始め中近東、東南アジア、アメリカ大陸と4年三ヶ月をかけて5万5000キロを自転車で渡りました。
・会社には一人くらい変な奴がいた方がイイ
面白いのはミキハウスの社長の「一人くらい変なことやっている人が会社にはいた方がいい」ということで、4年3ヶ月のあいだ仕事を辞めさせることなく給料を出し続け、実質有給休暇扱いで旅に行かせたということです。
この社長の人柄もあるんでしょうが、著者の交渉の良さも多少影響しているのでしょう。
ここまで壮大な旅を想定すると今ある地位を全て捨てて取り組まないといけないみたいなイメージがありますが、他にもいろいろなスポンサーが付いている描写から考えると、工夫しだいで意外と好条件でできるのかもしれません。
この本の一番の見どころ、そして著者が一番大事にしている場面は、旅をする先々で出会う人とのつながりです。
察しの通り自転車を使った旅ということで様々な困難に著者は直面するのですが、そのたびに助けられた人々の行為をこと細かに説明しています。
・人は貧しいほど他人に分け与える
坂本氏はヨーロッパやアメリカなど先進国だけでなく、東南アジアやアフリカの貧困地域、中東の紛争の火種がくすぶっているエリアも訪れています。
しかし、この本を読むと、「貧乏だからなにもしない」とか「危ないから他人に構っていられない」という描写はなく、むしろなけなしの持っている物を無償で分け与える優しさを突出して持っているように見受けられるのです。
貧しいから、危ないからみんなで助け合うという考えが自然と優しさに繋がっているのだと著者は語っています。
・最近の日本人は他人との繋がりが薄いって言うけど…
ところで、日本はそういった助け合う精神が段々と薄れてきているというふうに言われている節がありますが、どうもそれも違うのではと、この本を読んでいて感じました。
先ほど説明したミキハウスの社長の行為もその一例ですが、坂本氏を支えた両親、友人たちももその中に含まれています。
「スポンサーになるにあたって条件を提示したが、実はそんなものはどうでもいい。私も坂本氏と同じ夢を持っていたけど諦めた経緯があるから、代わりに叶えてほしい」といったスポンサーの話が印象に残っています。
その国の事情により違いはありますが、頑張っている人に自分も何か役に立ちたいという優しさは、本当はだれでも持っていると感じました。
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